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〜〜〜Sushi Bar そこは天国、ガリ食べ放題



〜〜〜SuShi Bar そこは天国、ガリ食べ放題



【寿司屋のオヤジ】へいらっしゃいっっ!

 三時過ぎという微妙な時間もあって店内はガラガラ。
 やたら威勢の良い騒音を立てたこのイカついオヤジが店の主人だろうか・・・。
 旅情番組の情報が正しければ寿司屋の主人とはこんな姿をしていたはず・・・。

 けれどその口元の、セクシーダンディ〜〜に跳ね上がった口ヒゲがそれに符号しない。
 ・・・・・・むう、いまいち確証が得られない。
 シゲちゃんのマニュアックなヒゲ友達だろうか。

【オヤジ】って、シゲちゃんか。珍しいじゃねえかよ、こんな時間に。

【茂】いやあ、実はカクカクシカジカ・・・ということで。

【陽司】伝わるかボケ。

【オヤジ】な、なんだってぇ!?コイツら寿司食ったことねえのかっ!?

【陽司】 バカなっっ!?

 まあ、ベタな展開はさておき。
 私達はカウンターに腰掛けた。
 目前にキラ星のごとき寿司ネタがガラス越しにのぞく。

【月子】素晴らしい・・・。これぞ文化の極み・・・・・・。

【オヤジ】へっ、ありがとよ、お嬢ちゃん。

【月子】素晴らしいお仕事です・・・。こうやって日々この店は人々に夢を売ってるのですね・・・。

【オヤジ】かぁぁーっ、シゲちゃん!良い子だな!

【茂】ええ、僕の友達ですから。ようちゃんは何が食べたい?

【陽司】えっ・・・えっ・・・えっと・・・。

 伊達に18年貧乏やってない。
 どうせ陽司のこと。何を注文すればいいか思い付かないんだろう。
 いつもエラそうにしてる陽司がこんなに慌てて・・・かわいい。

【月子】トロ・・・サビ付き・・・。

【オヤジ】あいよっ!

【陽司】・・・・・・・・・・・・・・・。

 ふっ・・・。
 陽司に向かって薄く笑ってあげる。

【陽司】くそ・・・・・・。

 そんな聞き取れないくらいのくぐもった小声が微かに聞き取れた。

 ・・・愉快だ。

【オヤジ】トロお待ちっ!

 来た。

【月子】ありがと。

 早速口に入れる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

【月子】トロ一丁・・・。

【オヤジ】わっはっはっ!あいよ〜〜っ!

 トロ・・・・・・噂以上の一品・・・。
 よもやこんな物がこの世に存在していたとは・・・・・・素晴らしい。

【茂】じゃあ僕らもトロ頼もうか。

【陽司】あ、ああ・・・。

【茂】オヤジさん、トロ二つ。

【オヤジ】あいよ〜〜!

【月子】ん・・・・・・これは?

 ふとカウンターの端によくわからないケースが置いてあった。
 中には漬物みたいな変な物が入っていて・・・。
 なんだろう・・・。

【茂】それはガリ、ショウガの甘酢漬け。タダだよ。

 ほう・・・タダ。
 陽司の姿をのぞいた。
 興味あり気に手元のガリをのぞいて、けど緊張してるみたいで固まってる。

 当然見せ付けるように受け皿にとって口に運んでみた。

【月子】おお・・・コレが・・・タダ・・・・・・素晴らしい。

【茂】はは、確かにね。ちなみにショウガには食欲増進効果があるから、食べるとお腹がすくんだ。

【月子】なんと、巧妙な罠・・・。

【オヤジ】おいおい罠かよ。ほい、トロお待ち!

 来た。
 早速口に運ぶ。

【オヤジ】食うのはやっっ!

【月子】出来立てが一番。

【茂】まあね・・・ほら、陽司くんも食べてごらん。

 ん・・・まだ食べてないんだ。
 二つ目のトロを口に運びながらその姿をのぞき見る。

 陽司を肴にトロ・・・最高・・・・・・。

 ようやく陽司はそれを口に運んだ。
 ・・・・・・ズルい。

【月子】トロ。

【オヤジ】あいよっ!

【茂】飽きないねえ・・・。オヤジさん、何かおすすめのネタない?

【オヤジ】へっへっへっ、あるよ〜スゴいのが。

【茂】ほほう、じゃソレ三人分お願い。

【オヤジ】あいよっ!

【茂】・・・・・・ちなみに何なんだい、ソレ。

【オヤジ】ヒラマサ。それも南方ヒラマサじゃない本物のヒラマサ。

 ヒラマサ・・・?
 ・・・・・・・・・日本刀?
 食べれる?おいしい?

【茂】おお〜〜そりゃスゴイ。ヒラマサは確か夏が旬だっけ?

【オヤジ】博学だね・・・。そうよ、今が一番美味い。

【茂】へーーそりゃ楽しみだ。

【オヤジ】へいっ、トロ!

 ふむ・・・。
 食べる。
 美味しい。
 幸せ・・・。

【茂】あとはオヤジさんのお任せでいいや。

【オヤジ】あいよ。


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【月子】恐るべし・・・ヒラマサ・・・。

【茂】美味かったね。

【月子】トロ美味い ヒラマサ美味い もっと美味い ・・・季語はヒラマサ。

【茂】ははっ、お見事。・・・で、もうイイのかい?

 満腹。
 もっと食べたいけど、食べれない。

【月子】うん。

【茂】そか。陽司くんは?

【陽司】ごちそうさまでした。俺もお腹いっぱいです。

 ・・・・・・陽司が敬語使ってる。
 変だ。
 緊張し過ぎでおかしくなってるんじゃないだろうか。

 ・・・・・・ちょっと笑える。

【茂】そっか。そりゃよかった。オヤジさん採算。

【オヤジ】あいよ。

 シゲちゃんは懐から何かを取り出してオヤジに投げた。
 おっと、エラーだ。
 キャッシュカードらしきものを拾い直してレジに向かってゆく。

【茂】あ、そだ、オヤジさん。

【オヤジ】ん〜〜?

【茂】ガリちょうだいよ。ようちゃん気に入っちゃったみたいで。

【陽司】え・・・・・・い、いや・・・そういうわけじゃ・・・。

 そういうわけじゃない。
 ただ陽司は貧乏性が抜けないだけ。
 どうせシゲちゃんに気を使って、気づくとガリを口に運んでたんだろう。

【オヤジ】そっか、じゃー持ってけ。奥からガリの瓶取ってくるから。

【陽司】えっ、瓶ごと!?

 カードをシゲちゃんに投げ返して、オヤジは店の奥へと消えてゆく。
 ヨシ、今夜の晩ご飯にガリが加わった。

 ちょっとリッチ。
 陽司の顔をのぞくと複雑な表情。
 けど夕飯のメニューが増えて内心嬉しそうだった。
 愉快だ。


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